ガーシュイン アップライトピアノ B200 解体と修理 2024.09.30
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ピアノ職人・VIRA JAPAN
(有)ラッキーパイン
川崎市内の昔からの知り合いから、2階のピアノが出せないので見て欲しいとの依頼を受けて下見に伺いました。一度ピアノの運送店に下見を依頼したそうですが、その時はそのままでは出ないと言われたそうです。ピアノの運送店が下見をして出ないとなると、解体して出せるかどうかと言う事になります。
実際に下見に伺った時は、南側と西側に窓が有りましたが、いずれの窓もそのままでは通らない状況でした。そこで、解体した場合のピアノの横向きのシルエット寸法を測って、段ボールで型紙を作って貰い、室内移動が可能かどうかを調べて頂きました。
それで何とか室内移動が可能な事を確認した上で、9月30日の搬出作業となりました。ただ、60年前のピアノなので、本体の解体時に、二次災害が起きないか心配でしたが、何とか午前中2時間程で解体作業を完了出来て、午後の2時過ぎにピアノ運送店が来て、窓からユニック作業で搬出出来ました。
ピアノは全体的にはしっかりしていて、ピンのトルクも十分有りましたので、修理可能と判断してお受けしましたが、やはりピアノ1台を解体すると体力的にこたえる年齢となりました。ピアノの解体作業は今回が最後になるかも知れません。
これまで、古いピアノの修理は何台も受けて来ましたが、この作業も体力を使うので最近はあまり受けてはいませんでした。ただ、ピアノが蘇って行く姿を見られるのが楽しみで、出来る間は続けて行きたいと思います。
2024.10.07他の作業の合間をぬって、象牙鍵盤の漂白をしました。天気予報では明日から暫く雨の日が続くようで、今日外に出たら結構なお天気だったので、それなら折角だから漂白をしようと思いつきました。
象牙鍵盤は和紙と過酸化水素水を使って漂白しますが、日光が出ていないと綺麗に漂白出来ません。今回の修理に漂白は入っていませんでしたが、天気が良いとどうも心がうずいて来て、気が付いたら作業していました。
真夏の猛暑日ではないので、日光に当たる時間がとれるか心配でしたが、何とか大丈夫そうです。
中音部の黄ばみが若干取り切れていませんが、それでも当初の状態よりはかなり良くなったと思います。
2024.10.11時間が取れたので、象牙鍵盤の状態を確認しました。こちらの象牙鍵盤は一枚象牙ではなく、鍵盤の手前側と奥側に分けて象牙を貼って有ります。このタイプの鍵盤は手前側が剝がれやすいので、これまで何台も再接着をしました。案の定、使用頻度の高い中音部の鍵盤4つの象牙が剥がれかけていました。
象牙鍵盤専用の接着剤を使って、再接着をします。象牙鍵盤は薄くて下が透けて見えるので、この象牙鍵盤専用の接着剤が有ります。
接着後の圧かけは、鍵盤張替え専用の治具を使います。接着した鍵盤がズレない様に、慎重に圧かけを行います。
2024.10.12世間は三連休で、久しぶりにお天気も良く、行楽日和でしたが、今日遠方からお客様が修理品を持ち込まれると言うことで仕事となりました。午前中にお客様が見えたので、折角なので鍵盤の下処理をする事にしました。長年使ったピアノは鍵盤の横の部分が手垢等で汚れて黒くなるので、これを全部落として行きます。
それともう一つ、今回の鍵盤は象牙鍵盤で、何枚か剥がれがあったので再接着しましたが、古い楽器は接着剥がれが起きて、何かとトラブルの原因になります。こちらのピアノも剥がれが有りましたが、4鍵だけという事は考えにくいので、もっと鍵盤の浮きが有ると思い作業をしました。あえて鍵盤を剥がす訳にも行かないので、この木場落としと言う作業で、通常はスチールウールを使う所、100番の耐水ペーパーを当木を使って汚れ落としをしました。これによって接着剝がれを起こしている鍵盤は、ペーパーが引っ掛かり剥がれます。
案の定、幾つかの鍵盤に接着剝がれが起きていました。改めて象牙鍵盤専用の接着剤で再接着しました。
結果的に15の鍵盤に接着剝がれが起きていました。
再接着した鍵盤には、マスキングテープを貼って分かるようにしておきます。これで後で鍵盤が剥がれたと言うトラブルは未然に防ぐことが出来そうです。ただし一度剥がれた鍵盤は元々の接着よりは接着力が弱いので注意が必要です。
2024.10.14本来は明日から作業を開始する予定でしたが、明日急に別の作業が入ってしまいましたので、休日返上して今日作業を行いました。先ずは鍵盤のバフ研磨、いわゆる鍵盤の磨き作業です。ここで注意しなくてはならないのは、象牙鍵盤を再接着しているので、それをバフ研磨時にひっかけて剥がさない様にする事です。
鍵盤バフをかける時に、鍵盤の手前側の木口(人間の歯並びみたいな部分)も一緒にバフ研磨をして汚れを落とします。この時にも鍵盤のチリ部分(鍵盤の出っ張り部分)を引っかけて剥がしてしまう事があるので、注意して作業を行いました。
ところが何と、象牙鍵盤の奥側にも接着剥がれが有り、バフでひっかけて剥がしてしまいました。おまけに鍵盤が欠けてしまいこのままでは使えません。何となくそんな事を思っていた所でしたので、正夢を見てるような感覚です。
兎に角同じ規格の象牙鍵盤を探して、貼りつけることにしました。以前から象牙鍵盤はストックしておきましたので、こんな時に助かります。寸法と厚さが同じ位の象牙鍵盤を見つけて、一度水に浸けて反りを取ってから接着しします。
通常使用する鍵盤接着治具では圧が足りないので、象牙鍵盤専用クランプともう一つは簡易クランプを4機並べて使いました。
この間、アクションの状態を調べてみましたが、鍵盤があれだけ接着剝がれを起こしているなら、アクションのパーツも怪しいと思い覗いて見ると、案の定ウィペンヒールが2つ剥がれていました。そこで全てのウィペンヒールを指で揺らして見ると、取れる、取れる、結構な数の部品がぐらついていました。
簡単に剥がれ落ちたウィペンヒールは20個、この後アクションを寝かせて再度調べて見ると、後5個が取れました。
こちらも接着しておきました。
2024.10.15午前中外出する前に鍵盤の状態を調べました。昨日剥がれて欠けてしまった象牙鍵盤も無事に張替えが出来ました。
まだ黄ばみが残る鍵盤も有り、有料作業の場合は再度漂白をかけるのですが、今回はこの辺でお許し下さい。しかし、白鍵も黒鍵もかなり綺麗になりました。
2024.10.18今日はアクション関係の調整と本体のクリーニングを行いました。先ずはアクションのバットフレンジスクリューの増し締めです。このネジが緩むと音に濁りが出たり、ノイズが発生しますので88本全部増し締めしておきます。
この時気付いたのですが、ブライドルテープが2本切れていました。
お預かりしたした時には切れていなかったので、アクションの移動時か作業時にひっかけてしまったのかも知れません。
こちらは新品に交換しておきました。
アクションに取り付けで、動作も問題有りません。この後コンプレッサーを使って、ホコリを吹き飛ばしておきました。
続いて本体のサビ落としを行います。特にチューニングピンはかなりのサビの発生があるので、根気よくサビ落としをして行きます。
先ず真鍮ブラシで全てのチューニングピンのサビを手落としして行きます。
続いて専用のゴムチューブとドリルを使ってサビを落として行きます。
サビの発生がかなり強固だったので、この作業を3回繰り返しました。
予定ではピンサビと弦サビ落としまで作業を行うつもりでしたが、腕と指と腰が痛くなったので、今日はやめておきます。
2024.10.21今日は弦サビ落としとケース内清掃、ペダル研きまでの作業を行いました。弦は低音部の巻線は長い年付きの経過で銅線が黒くなっており、また中音部から高音部の真線にもサビが浮いていました。
弦サビ落としは真鍮ブラシ、スチールウール、サンドラバーをそれぞれ使って落として行きます。
手の入る所は全てサビ落としをしておきました。中の底板にカスが溜まっていますが、底板は黒く塗装されているのかと思っていました。
しかし最後にペダルを磨いてから、内部のホコリを吸引したところ、黒い塗装ではなく、ホコリが積もっていたようです。底板もちゃんとした木目が出ていました。
その後、本体塗装面の汚れ落としとバフ研磨まで行いました。塗装面も汚れを落として磨き込むととても綺麗な鏡面が出て来ました。
本体を寝かせて、細かい部分の磨き込みと塗装面の部分補修を行いました。
2024.10.30今月も残り2日となりました。時間の経つのは早いものです。今日はこれまで下処置しておいた各パーツを仕上げて、本体に取り付ける作業を行いました。
これ位の作業は、以前は一日で終了されていたのですが、ここ最近は何日かに分けての作業となりました。
細かい所ですが、ダンパーの突き上げ棒を固定する部分の黒鉛がこすれて薄くなっていましたので、改めて黒鉛を塗布しておきました。
目に見えない所で、特にこの様な作業をしなくても現状で動作はすると思いますが、この辺りの木材パーツが上下して動く所は、滑りが悪くなると、キュッ、キュッと言った雑音が出る事があるので、念の為の作業をしておきました。
取り外す時にそうだったのですが、両側の脚の取り付けが割とルーズで、しっかりと妻土台に固定されていませんでした。
その為、脚を固定する妻土台側のビスを1番手太いビスに替えておきました。特にガタツキ等が発生する事は無いと思いますが、この辺りはそのままにしておくと、後で何か悪さをする奴が現われる事が考えられるので、しっかりと固定しておきました
その後、バランスピン研磨を行いました。鍵盤の動作点は赤いパンチングクロスの上なので、バランスピンの根元も研磨する為に、一度パンチングクロスを外して作業します。
このパーツは鍵盤動作の中心点になりますので、サビや汚れ等が付着していると、鍵盤の動きが悪くなったり、鍵盤が戻って来なくなったり、またサビの影響でブッシングクロスと言う部品が摩耗して鍵盤がガタついたりと言った不具合を発生させます。
一日かけて全てのバランスピン研磨を終えました。この作業をした次の日は、指がこわばってしまいます。手前のフロントピンの研磨も行いたいのですが、明日の朝の指のこわばり状態で決めます。
2024.10.31今日は朝からピアノの出荷で、トラックにピアノを乗せる作業でした。20台位トラックに乗せるのを手伝いをしましたが、ヒザが痛いです。スペースが空いたので、スタッフにピアノの裏がわのクリーニングをしてもらいました。かなり汚れていましたが、歯ブラシや綿棒を使って、細かい所までお掃除してくれました。
午後からフロントピンの研磨を行いました。
バランスピンは所々汚れやサビの出ている所が有りましたが、フロントピンは割と綺麗な状態でした。
スムーズにフロントピンの研磨が進んだので、鍵盤をセットする事にしました。
鍵盤をセットしながら、象牙鍵盤の接着状況を確認する為、ちょっと強めに白鍵の手前側を上にひっかけてみた所、やはり接着していなかった鍵盤が剥がれて来ました。後で鍵盤剥がれが起こるのは避けたいので、ここは中音部ほぼ全ての鍵盤を接着した方が安心です。
新たに未作業だった白盤9鍵を接着しました。
2024.11.01鍵盤の接着も完了し、アクションを乗せて動作確認を行いました。所々ハンマーが戻って来ないスティックと言う症状や音が止まらないダンパーの止音不良等が有り、その修理を行いました。日にちを改めてアクションの調整と鍵盤の調整、調律を進めて行きます。
2024.11.03当社提携の調律師に来てもらい、アクション調整、鍵盤整調、ダンパー止音不良の修理、ハンマージャックスティック修理、鍵盤ならし、鍵盤アガキ調整と行いました。調律は一度442㎐にあげてから440Hzに落として安定させました。アクションのウィペンヒールも、剥がれ落ちたのは再接着しましたが、怪しい箇所は全て剥がして接着してくれました。その為に作業時間は午前10時から始めて、終わったのは午後4時でした。
2024.11.05外装パーツの汚れ落としとバフ研磨を行い、全ての作業が完了しました。
かなり汚れていたのとサビの発生もあり、作業は1日かかりましたが、GERSHWINのエンブレムもピカピカになりました。
譜面台のヒンジも外して磨き上げてから取り付けました。
天板のロングヒンジも鍵盤蓋のロングヒンジもバフ研磨で磨き上げました。思いの外作業に時間がかかりましたが、何とか元の状態に近いところまでお戻しする事が出来ました。鍵盤タッチも格段に良くなりました。あとは暫くエイジングで動作の確認をします。
続く