ホーナー クラビネット D6 修理 2024.02.20
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ピアノ職人・VIRA JAPAN
(有)ラッキーパイン
2024.02.03お客様がクラビネットD6を修理依頼でお持込み頂きました。外装は通常の塗装よりやや濃い茶色に塗られています。動作確認の為アンプに繋いで音出しをしてみましたが音が出ません。少々厄介な事になって来ました。
プリアンプ関連のコードやハンダの確認を行いましたが、取りあえずは問題無さそうです。
そこで外部出力するフォーンの差し込み状況を確認すると、どうもこのコネクター部がハンダ剥がれを起こしているのか、接触不良を起こしています。取りあえず簡易修理をして導通を確認出来ました。
さて内部を見ると、先ずハンマーチップが全て朽ちています。こちらは全交換となりますが、朽ちたゴムチップの残骸がタンジェントの中に残ってしまい、新しいゴムチップがしっかりとはまらない事が有ります。その為タンジェントの中の朽ちたゴムを綺麗に取り除かなければなりません。これが予想以上に大変な作業で時間がかかります。ここをいい加減にやると、後でロクな事がありません。
弦周りにもゴムチップの破片がころがっています。
こちらは弦交換時に全て綺麗にしますが、ミュート用の毛糸が編み込んであるので、この毛糸はそのまま使います。
全体をバラすために、本体裏側のビスを外しますが、ビスがそれぞれ形状やピッチが違う物が有るので、一つ一つチェックしておきます。
本体にハープを止めるビスを外してみたら、1本だけ長さが違う物が有りました。たまにこんなことが有り、悩まされます。
取りあえずハープ部を外して、内部のお掃除と全体の状態をチェックします。
クラビネットD6の弦交換をする時にいつも思うのですが、右側のミュートバーを取り付ける為の木製の台がハープの弦を止めるヒッチギリギリにセットされている為、一度ハープ部を取り外さなければ弦交換が出来ません。全ての弦を交換するなら良いのですが、万が一このブロックに近い弦が切れた場合、弦交換が出来ない事があります。
その為ブロックがハープに干渉しそうな部分を小刀で削り落として置きました。こうすれば、万が一弦が1本切れた時にも、スムーズに弦交換が出来ます。
弦を外したらハープ部の清掃を行います。汚れ落としとサビ落としですが、特にこちらはサビが多く発生しており、手作業でコツコツやらないとなかなか取れません。
弦が当たる部分は少し凹みが出来ているようで、サビが落としきれません。サンドラバーとスチールウールを使い分けながらサビ落としをして行きます。
何とかこれでサビも落とせて問題無く動作出来る状態になりました。
続いて鍵盤のゴムチップを取り除く作業ですが、これがまたなかなか厄介な作業となります。元々付いていたゴムチップが加水分解されてボロボロになっているのは良いのですが、これがまた粘っこくなって簡単にはとれません。先ずはキリで下穴を開けて行きますが、この時もキリにゴムチップが粘り付いて来て、キリの先にこびりついて何回かやるうちにキリが効かなくなります。切先についた粘り気の有るゴムを落として、再度下穴を開ける作業となります。
その後に4㎜のテーパードリルで残りのゴムを取り除く作業を行います。ここでもドリルの先にゴムが粘り付いて来ます。
この作業の後に千枚通しを加工した工具でタンジェントの中のゴムを除去して行きます。
2024.02.23劣化したゴムチップが粘り付いている為、時間をかけて乾燥させながら作業を進めています。この劣化したゴムチップが残っていると、新しく取り付けるゴムチップが正常な状態で取り付かなかったり、新しいゴムチップの劣化を早めたりする危惧が有ります。
とにかく出来るだけゴムが残らないように、同じ作業を何回も繰り返して行います。
キリや千枚通しを加工した治具で劣化ゴムの剥離作業を行い、その後ルーターを使って処理します。1日では終わらないので数日この作業を続けて、とにかく綺麗にします。
結局延べ3日かけて劣化したゴムの除去作業を行いました。最終的にはタンジェントの先端のゴムチップを取り付ける部分を広げて中の劣化ゴムの除去を行いました。
取りあえずは殆どの劣化ゴムの除去が終わりましたが、もう1日置いて最終チェックをします。
2024.02.27何回か劣化ゴムの取り除き作業を行って来ましたが、これで大丈夫と思っても乾燥時間をかけて再度作業を行ってみると、タンジェントの奥にこびりついているゴムのカスが取れる取れる。やはり時間をかけて行なわないと正確な仕上げが出来ないようです。
2024.02.28やっとゴムチップの取り付け作業が出来ました。ゴムチップがキッチリとタンジェントにセット出来るように、一つ一つ確認しながら取り付けする為、これだけで1日作業となります。取り付けた後は、位置決めをするために専用治具で調整して行きます。
ゴムチップの交換を進める中で、上手く取りつかないゴムが有りました。取り外して確認すると成形が狂った不良品が混ざっていました。
ゴムチップの交換が終わった後は弦の張替え作業に移ります。その前に弦を張り込むヒッチ側にある金属ベアリングを磨き上げておきます。ここが錆びていると弦切れの原因となりますので、バフで研磨してピカピカにしておきます。
2024.03.01弦の張替え、全体の半分程終えました。明日また続きを行います。
2024.03.04弦の張替えが完了し、鍵盤調整と調律に移ります。
ゴムチップも全て交換して、位置出しと弦当たりを見ます。この作業がとても時間がかかります。
本体に取り付けては、音出しをして、音量、音質のバラつきをチェックします。その後問題ある鍵盤にチェックの為のマスキングテープを貼っておいて、鍵盤を外して調整しては本体に戻す作業を何回も行います。タンジェントの位置調整だけで解決しない時は、改めてゴムチップを交換してみますが、これが中々思い通りになりません。今日一日この作業が続きます。
途中ノイズが気になるのと、スイッチがちゃんと機能していないのでスイッチの動作を確認した所、音色の切り替えスイッチの接触不良が有りました。エレクトリッククリーナーを使って接点の洗浄をしておきます。
2024.03.08調律を3回程行い、弦の張力が安定してきたところで再度弦当たりをチェックしました。すると、どうしても幾つかの鍵盤の音色と音量に違和感を感じます。タンジェントの位置調整を何回か行っても改善しないので、原因は鍵盤側では無く、弦側にあるのではないかと思い、あまりのゴムチップを先細ラジオペンチでつまんで、一音ずつ発音チェックをして行きました。すると、やはり違和感のあった弦はしっかりと発音しません。同じような症状が4~5本確認出来ます。これはちょっと厄介な事になって来ました。
ゴムチップと弦の接触だけでなく、弦そのものの発音を確認してみると、こちらはそんなに違和感を感じません。いよいよミステリアスな状況になって来ました。
2024.03.08気を取り直して弦一本一本をギターピックを使って発音してみました。すると全ての弦が正常に発音します。そうすると最後に考えられるのはゴムチップで弦を押さえる為に出っ張っているブリッジが原因と考えられます。
リードオルガンのピットマンの先にゴムチップを取り付けて、簡易的なタンジェントを作って、再度一音一音チェックしてみました。
するとやはり違和感があるKEYの弦は、ゴムチップで叩いてもしっかりと発音しません。考えられるのは本体側のブリッジの経年劣化による凹みが考えられます。長年使用されてくると、よく使う音程のブリッジが擦り減ってしまい、その為にしっかりと音が出ない可能性が有ると考えられます。しかしこれもあくまで推測なので、先ずはブリッジを平らにすることから作業を行ってみました。
もし弦溝が出来ていて、ゴムチップがしっかりと弦を抑え込むことが出来なければ、音量、音質に影響するはずです。そこでペーパーを使ってブリッジを平らにして行きます。
ただしこれだけでは改善しないので、弦をずらしてゴムチップが弦に当たる位置を、ブリッジの高い部分に弦が当たるように調整します。
この作業を何回か繰り返して、他の鍵盤も違和感なく発音するように調整しました。しかし交換したパーツも新しく、全体がしっくりと落ち着くまで時間がかかります。また新品の弦は伸びやすいので音程が狂います。その為、調律も何回か行って落ち着くまで調整を続けて参ります。
2024.03.08調律や細部の調整を終えて、何とか作業が完了しました。ただしクラビネットD6特有のノイズが乗っています。実際に演奏する時にどのくらいのノイズが乗るかは、その現場でやってみないと分からない部分があります。
2024.03.11お客様がお引き取りにお越しになり、お渡し致しました。
その後お客様よりクラビネットの接続方法でノイズの出方に違いがある事を連絡頂きました。大変有難い情報です。クラビネット使用されている方でノイズに困っている方はお試し下さい。以下頂いたメールの一部を紹介致します。
ノイズの件ですが、結論から申し上げますと、全く問題ございませんでした。状態の良いエレキギターをアンプに繋いだ時に出る通常のノイズ程度といった所です。お陰様でかなり音も良く倍音も豊かです。タッチの感じも素晴らしいです。
- 1、クラビ→シールド→Roland JC120 ノイズが乗ります。出音もかなり小さくアンプのボリュームを上げるとノイズも肥大します。
- 2、クラビ→シールド→チューブスクリーマー(ブースター)→シールド→JC120 ノイズが乗ります。出音が小さいため、ブースターとしてゲインを稼ぎアンプへ送りましたがノイズは肥大し”1″と同じ症状になります。
- 3、クラビ→シールド→マイクプリ(UA 610)→シールド→JC120 全くノイズが乗りません。真空管を通したこともあり、かなり音が良いです。柔らかいサウンドからパーカッシブルなサウンドまで表情も豊かです。