ホーナー クラビネット D6 修理 2023.06.09
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ピアノ職人・VIRA JAPAN
(有)ラッキーパイン
2023.06.09栃木県にお住まいのお客様がホーナー クラビネット D6の修理の為に、本体を持参して遠路はるばる当社を訪ねて来られました。首都高速羽田線の通行止めの関係で、元々お越し下さる日程を延期して本日になりました。本体はライブ等での使用が少なかったのか、キズや傷みも少なく程度の良い個体でした。
付属品としてはシールドケーブルが有りました。
しかし、譜面板は欠品していました。
早速、状態を調べる為にアンプに繋いで音出しをしてみましたが、電源ONと同時にノイズは出るのですが鍵盤をたたいても音が出ません。
そこで鍵盤下のタンジェントをチェックしてみると、先端に有るはずのゴムチップが無い!!それも全部無い!!どうもゴムチップは全て朽ち果ててしまったようです。何が原因なのか気になる所です。
ケースの中を見てみると、どうもゴムチップの破片と思われる破片が見受けられます。
お客様にお話しを伺うと、お持ちいただく前に掃除機で内部のゴミを掃除したそうで、その残りがケースの中に有ったようです。
弦もところどころ隙間が空いていて、弦切れなのか単なるズレなのかもう少し細かく見て行く事にします。
鍵盤ユニットを外してタンジェントを確認してみました。全てのゴムチップが朽ちて欠損しています。
ここまでゴムチップが劣化したのを見たのは初めてです。ただゴムチップを交換すれば良いというわけではなく、何が原因なのかを考えて行かなくてはなりません。作業としてはとにかく最初にゴムチップを交換して音出しする事から始めて行きます。
弦を確認したところ弦切れは有りませんでしたが、この隙間が出来た原因が経年によるものかほかに何か原因があるのか突き止めておかないと、修理後に何らかの不具合が起こる可能性が残ります。
2023.07.01オーダーしたクラビネット用ゴムチップが入荷しましたので、取りあえず1個交換してみました。交換する為には現在タンジェントに残っている朽ち果てたゴムチップの残骸を綺麗に除去しなければなりません。これが手間のかかる作業で、一つ除去するのに5分ほどかかりました。方法を考えてもっと手早く綺麗に除去出来るようにしたいと思います。
新しいチップに交換しましたが、古いチップの残骸を綺麗に落とさないと仕上がりが良くありませんので、除去作業が重要です。夜寝る時に色々と考えて、ドリルを使うアイディアが浮かんできました。テーパー上のドリルビットを低速回転で使用すれば、本体のタンジェントを傷める事無く、古いゴムチップを取り除けるのではないか・・・
早速翌日やってみました。良い線行ってますが、大雑把にしか取れません。やはり後は手作業で丁寧に取り除いて行くほか無いようです。
ドリルでおおよそのゴムチップを取り除いた後は、ピアノ線を使ってみたり歯間ブラシを使ってみたりしましたが、やはり細かい部分の残骸を取り除くのには手作業となります。
兎に角出来るだけ残骸を残さないように、綺麗になるまでいろいろな道具を使って作業をしました。時間が有ったので暫く放置して乾燥させてから数回に分けてゴムの残骸を除去しました。
2023.08.11時間が取れる時に作業を進めておこうと思い、ゴムチップの取り付け作業を行いました。結構神経を使う作業で新しいチップを取り付けてから2日程置いて、再度目視しながら締めの弱い所を再度加締めました。その後専用のハンマー調整テンプレートを使ってハンマーホルダーの位置調整を行いました。
専用のハンマー調整テンプレート大変便利な治具ですが、しかしこれだけでは治まらないので実際に本体に取り付けて弦とゴムチップの当たり具合を鍵盤を弾いてチェックする事が必要です。そして弦当たりの悪い所はその都度鍵盤を外してハンマーホルダーを調整してはまた本体の戻して鍵盤を弾いてチェックするを何回も繰り返さなくてはなりません。
調整作業がほぼ完成して、暫くエイジングで様子を見ます。奥のクラビネットD6は修理を終えてお客様が引き取りにお越しになるのを待っている状態です。クラビネットが2台並んでいる光景もなかなか良いものです。
2023.08.14ゴムチップを交換して鍵盤を本体に乗せて発音チェックをしました。幾つかの鍵盤で弦当たりに狂いが有った為、ハンマーホルダーの調整をしました。この調整は何回か行わなくてはならないので、鍵盤を外してはハンマーホルダーの調整をして、本体に乗せて音出しして弦当たりに問題が無いか一つ一つ確認すると言う、同じ作業を数回繰り返し行う必要が有ります。ハンマーホルダー側に狂いが有る場合と弦側に狂いが有る場合とが有り、その両方を意識しながらの調整が必要です。
全ての鍵盤の調整が終わり、次にA=441Hzで調律をします。クラビネットは張力がそれ程強くないので弦切れが起こる事は稀ですが、それでも高音部の調律の時は緊張します。また今回のモデルは一部分ですが、かなりピッチが上がっていた音が有りました。良く弦切れを起こさなかったものだと思います。
ご依頼頂いたメンテナンス内容を全て完了したので、本体のパーツを取り付けていた時、鍵盤左側のスイッチの動作を確認した所、どうも動きに違和感が有りました。通常音色切り替えスイッチは一つ一つ押すので普段の使用では分かりませんが、4つのタブレットを同時に押すと、本来動くはずのないタブレットも一緒に動いてしまいます。念の為タブレット間の隙間をクリーニングしてみました。しかし同時に動く症状は改善しません。通常の使用では問題はないと思いますが、原因と対策を講じるとなるとスイッチを分解して全ての動作確認をしなければならないので、費用が掛かります。この辺はオーナー様とのご相談となります。
オーナー様から見積り依頼を頂きましたので、基板を分解して原因を探してみます。
タブレット単体では問題無く動作するのに、4つを同時に押すと関係ないタブレットも連動して動いてしまうと言う症状です。あまり聞いたことが無い症状なので、まずはスイッチの機構を確認してみます。
それぞれのスイッチは独立してON-OFFをするようになっており、スイッチ間に異物が混入している訳でもないので、連動する訳が有りません。
ただ、よく観察すると、スイッチのギッタンバッコンする要の部分は。1本の細い金属棒がスイッチ全体に貫かれる様に使われいました。
そうすると原因は一つ。このバーのサビや汚れが抵抗となって、一つ一つのスイッチを押した時は問題なく動作するが、4つまとめて押すと中心のバーもそのテンションによって一緒に動いてしまう。その為に本来動くはずのないスイッチタブレットも連動して動く。どうもこれが原因の様です。しかし対処をどうするか、またここで問題となります。簡単なのは潤滑剤のスプレーを吹きかけて動きを良くする方法なのですが、これは後々何かしら悪影響が残る可能性があります。その為しっかりと対策をするとなると、面倒ですが手作業でバーの汚れ落としと潤滑剤の塗布を行う必要が有ります。結構神経を使う作業になりそうです。
お客様から修理のご依頼を頂きましたので、取りあえず無水エタノールをキムワイプに浸してバーのクリーニングをしました。
隙間があまり無い為、ピンセットにキムワイプを巻き付けてマスキングテープで固定するという、なんとなく昭和チックな方法でバーのクリーニングをしました。
その後同じようにピンセットにキムワイプを巻き付けて、潤滑剤を塗布します。今回はWD-40を使ってみました。これで1日置いて動作確認をしてみます。
1日置いてスイッチの動作確認をした所、問題無く動作していましたので、本体に組付けて再度動作確認をしました。他のタブレットに連動する事無く正常に動作をしていました。
スイッチ基盤を取り付ける時に時折接触ノイズが発生しましたが、基板をチェックしても特に異常がなかったので、全体を組付けてから音出し確認を行いました。すべて問題無く動作しておりました。この状態で1日エイジングで様子を見ます。
2023.09.12お預かりから約3か月でしたが、本日お客様がお引き取りにお越しになり、無事にお渡し出来ました。これからは問題無く動作してくれることを願うばかりです。有難うございました。