Hohner Clavinet D6 (クラビネット D6)修理と Whammy Barの取り付け 2022.07.31

Hohner Clavinet D6 (クラビネット D6)修理と Whammy Barの取り付け 2022.07.31

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(有)ラッキーパイン

当社でご購入頂いたクラビネットD6、突然音が出なくなったと言う事で、

修理の為お預かりしました。

当初は問題なく使えていたのですが、突然音が出なくなったと言う事でした。

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こちらのモデルは前ユーザーさんが、ノイズ対策でオリジナルのプリアンプ

を交換して、シールドボックスに格納していました。

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取りあえずプリアンプを外してチェックする事にしました。

回路も複雑ではないので、

当初は単純な原因で修理もそれ程時間が掛からないだろうと踏んでいましたが

実際に修理に取り掛かると故障原因がつかめず、なかなか先に進めません。

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前ユーザーさんからオリジナルのプリアンプを頂き、

プリアンプを交換する方向で進めてみましたが、

実際にオリジナルのプリアンプを見てみると、

配線状態がどうなっていたのか確認できず、

結局現在付いているプリアンプを修理する事にしました。

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もう一度初めから導通をチェックして行き、

IN側からとOUT側から信号の流れを追って行く作業となりました。

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回路図もオリジナルのプリアンプの回路図の為、

一つ一つの部品を確認しながら、信号の流れを追って行きました。

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そして、その結果、やっと見つかりました。

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このトランジスターがとんでました。

何のための部品なのかは不明でしたが、交換して無事に発音出来ました。

これでやっと音が出せるようになりましたので、

次のオーダーWhammy Barの取り付けに移ります。

Whammy Barはエレキギターのトレモロアームのような機能で

Barを押し下げると音程が上がる仕組みとなっています。

作業途中の画像ですが、金属の棒状のものがWhammy Barです。

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そのBarを取り付けるために、まずは本体をバラシます。

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事前に色々な情報を仕入れておいて、

作業前には全ての箇所の写真を撮っておき、

取り付け作業中にトラブルにならないよう

最新の注意を払って作業に取り掛かりました。

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Hohner Clavinet D6へのWhammy Barの取り付けは

本体のバラシから始まります。

弦も全て外して、後で新しい物に交換します。

次に、本体にWhammy Barの稼働部分を取り付けます。

しっかりと位置出しをしてから、

ドリルで金属フレームにボルトを通す穴を開けます。

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始めは下穴開けの為2㎜位のドリルから始めます。

その後、3㎜、4.5㎜、と順々に穴を広げて行きます。

取り付け用のホールが空いたら、

Whammy Barのパーツを取り付けて行きます。

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この時、フレームの裏側のアルミ製カバー

ボルトを固定するためのナットに干渉してしまいました。

その為、アルミ製カバーの淵を万力を使って広げました

こう言った作業には思いもよらない突発作業は付き物ですが

予想外の出来事に頭を悩ませながら

対処法を考えて、解決して行く。

そんな事の繰り返しです。

しかし、これが意外と楽しくやりがいが出て来ます。

このアルミ製カバーはピックアップのシールド対策と思われます。

Whammy Barの基本パーツが取り付いたので

次に弦を張って行きます。

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しかし、この張弦作業が思いのほか難儀な作業で、

1日に10本張るのがやっとと言った状況でした。

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ギターともピアノとも違う張弦作業に翻弄されました。

次に、弦交換をしたフレーム部を本体に戻して

固定する作業に移りました。

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この時も位置出しや配線の取り回し、

Whammy Barのストップ用金具の取り付け等々

何回もフレームを固定しては外す作業が続きました。

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特にパーツを取り付ける時の位置出しは

その後の作業と、演奏時の動作環境に影響を及ぼすので

取り付けマニュアルと動画の演奏シーンを見て、

イメージを膨らませながら最善の場所を探していきます。

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また、ハードな演奏にも耐えられるように

各パーツの取り付けは、ビスの直径と長さを測りながら

最適のトルクを確保出来るようにします。

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こうやって、何とかWhammy Barのストップ金具も取り付け、

次に待つのはミュートBarの取り付けです。

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これがまた、何かと厄介な作業の連続でした。

今回はミュートBarの取り付けですが、

これがまた一筋縄では行かない、

かなりの難関でした。

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先ずはもともと取り付いていたミュートBarは

Whammy Barを取り付けた事によって

パーツ自体が使えなくなります。

そこで、対応パーツに元の金属部品を外して

取り付けて行くのですが、

この時、対応パーツに有る下穴が

少しずつ間隔寸法が違うのでした。

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また、取り付けて行く順番を間違えると

全て初めからやり直しとなってしまうので

取り付け作業のシミュレーションをしながら

頭の中で取り付いた時の状態をイメージしながら

実際に手を動かして行きます。

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位置出しをする時の下穴も、

ミュートBarの動作位置を優先にして

取り付け位置を出して行きます。

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結構ギリギリの所でミュートさせているため

少しでも位置がずれると、ミュートが効かなくなります。

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こうして位置が決まったら、

全体を仮止めして、固定して行きます。

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この時、ミュートBarのスプリングを取り付ける為の穴

当初の位置から大きく違ってしまうため、

反対側にスプリング取り付け用の穴を開けました。

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そして、最後にスプリングを取り付けて

取りあえず本体を固定して作業完了。

今日の作業はこれにて一件落着

いよいよ完成に向かって、最後の胸突き八丁が待ってます。

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弦を張り終えてチューニングを終えました。

この時点で、幾つかのキーで隣の弦を一緒に叩く

音色が濁る、

音量が低いキーが有ると言う問題が発生しました。

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チューニングは下調律で大まかにピッチを合わせる作業でしたが

何とか無事に1回目を終えることが出来ました。

しかし、ハンマーが隣の弦を打つので、その原因を考えました。

①Whammy Barを取り付けた為、弦の位置がずれた可能性

②キーのハンマーチップの向きが違っている可能性

③ハンマーチップを取り付けているタンジェントの位置がずれている

かのどれかだと予想しています。

そこで、先ずハンマーチップを付属されていたチップに交換してみました。

その後再度取り付けて音出しをしてみましたが

全く改善されておらず、

音量の減少や複数弦の打弦の不具合はかえって増えてしまいました。

ハンマーチップそのものが原因ではないと判明しました。

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Whammy Barを取り付けた事により、弦の位置がずれた可能性が高いですが

弦の位置は変えられないため、

ハンマーチップを取り付けているタンジェントの向きの調整と

ゴムチップの取り付け角度や方向を調整して行く事にしました。

しかし目分量で作業をするには、難題が多く、精度的にも問題が有ります。

そこで、ネットで色々と調べて行く内にこんな治具が有るのを発見しました。

Clavinet Hammer Alignment Templete

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実際にメンテナンスの精度を高めるためには、やはり専用工具等が必要になります。

そんな予感で調べてみたら、やはり有りました。

早速ネットで発注して取り寄せる事にしました。

円高が影響している為か、この治具一つを輸入するのに結構な金額になります。

しかし、必要なものは必要なので、後は早く届く事を祈ります。

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オーダーしていたClavinet hammer alinment templeteが届きました。

早速ハンマーチップにあてて、角度を調整してみました。

しかし、殆ど不具合状況は変わらずでした。

鍵盤下のゴムチップを取り付ける金属部を一つ一つ曲げ加工して行くかと考えましたが、

これだけ多くの音に不具合が生じていると言う事は、

本体のワイヤー取り付けポジションの問題ではないかと考えました。

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ワーミーバーには全音分+1の弦取り付けヒッチが有ります。

高音部から張弦して行くと、最低音1つのヒッチが余ります。

この取り付け位置のズレで、2音発音や音色の不具合が発生している可能性が高いとにらんで

弦を1本1本隣(低音部側)にずらして行く事にしました。

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見にくいですが、弦と弦の間に隙間が有りますが、

ヒッチを変える事で弦の張られる場所がほんの少し変わります。

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この弦の移設は1本ずつ弦を緩めて外して、

隣のヒッチに弦をひっかけ直して、テンションを戻すと言う作業の繰り返しです。

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そこで、千枚通しを加工して弦をひっかける治具を作りました。

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とにかく気の遠くなる作業ですが、結果がどうなるか期待と不安が入り混じっています。

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弦の張り位置を変えて、全音無事に音が出るようになりました。

これで、やっと完了の目途が立って来たと思った瞬間、

音色をチェックすると、音圧の低い鍵盤が2音、

音色の違いを感じる鍵盤が4~6KEY有りました。

これはゴムチップの当たり具合だと思って、

タンジェントをペンチで曲げたり、

キーボード テンプレートを使って

ゴムチップの位置を調整してみましたが、

一向に改善されず、ここで又行く手を遮る大きな壁に

ぶち当たってしまいました。

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ネットを使って、同じ症状が無いか調べても

何も情報が有りません。

原因が分からないまま、やたらにいじくりまわしても

二次災害が発生する危険性が有るので、

とにかく原因追及の為に考える毎日です。

その結果、原因はタンジェントでもゴムチップでもない、

と言う事は鍵盤側では無いと結論付けて、

弦の張り方に問題が有るのではないかと

改めて弦を調べてみる事にしました。

弦を一度緩めて、再度張り直してみたり、

鍵盤を載せて、弦の位置をずらしてみたり

弦の上下位置を変えてみたりしましたが

一向に変化が有りません。

そこで、発音する仕組みを点検する為に

鍵盤を外して、手動でゴムチップを弦に当ててみました。

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一音ずつチェックしますが、やはり特定の2音の音色に違和感が有りました。

何故、この2音だけ違和感があるのか、

どうしても原因がつかめないまま、

日にちが過ぎて行きます。

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数日が経過して、気を取り直して再度挑戦!!

「考えろ、考えろ!」とどこからか声が聞こえてきました。

そして出て来た結論が、

「弦とゴムチップがちゃんと当たってないんじゃねー。」でした。

しかし、弦もちゃんと張ってあるし、

一体何が原因なのか、

再度一音、一音手動で音出しをしてみました。

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そして、やっとわかりました。

原因はゴムチップが当たるフレーム側が

そのポイントだけ他の所より少し持ち上がっており

その中心に弦が来ていないのが原因でした。

これは、ワーミーバーを取り付ける事によって

元々の弦の位置が、ほんの少しずれる事で起こる症状でした。

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さて、次はこれを解消する為にどうするかが問題です。

既に取り付けているワーミーバーの位置を変える事は出来ません。

そこで、一度弦を緩めて、ミートポイントに合わせてから

再度弦を張って行く事にしました。

ワーミーバーを使う事で、弦が元の位置に戻ってしまう可能性が有りますが

この方法しか対処法が無いので、

弦をしっかりと張り込んで行きます。

取りあえず、これで音圧の問題は解消出来ました。

これで暫くシーズニングして、様子を見る事にします。

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クラビネットD6のワーミーバー取り付けも、

音色の問題は何とかクリアー出来たようで

やっとゴールが見えて来た感が有ります。

最後の作業はワーミーバーを取り付ける為に

トップボードに貫通ほぞ穴とでも言ったら良いのか分かりませんが

とにかく天板の中央部に細長い穴を開ける作業です。

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これは付属されていたステンシルで位置出しをするのですが

どうも、それぞれの寸法が実際の物とちょっと違う。

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これではどこを基準に穴あけ作業をしたら良いのか分かりません。

そこで、板を一枚同じ大きさに加工して、

ステンシルの指示に従って穴あけ加工をしてみました。

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その結果、穴の位置がずれてる。

やっぱし!とうなずいても、

結果、穴の位置の修正をしなければなりません。

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ワーミーバーに合わせて穴を大きく広げて行きます。

ちょっとカッコ悪いので、後で木工パテで補修します。

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いきなり元のトップボードで穴あけしていたら

とんでもない事になっていたところです。

取りあえずこの板で採寸して

改めてトップボードを加工しようと思います。

せっかくなので、カーボンファイバー柄の

シートを張って雰囲気を見る事にしました。

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シートの貼り付けは専門では無いので

仕上がりには自信がないですが、

何とか張り込めました。

そしたら、以外と良いじゃない?

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なんだか、元々のトップボードに穴を開けるのが

憚られる思いになりました。

このまま使って貰えれば良いなあと思います。

但し、まだ最終加工が残っていますので、

細かな作業が続きます。

しかしここで、カーボンファイバー柄のフィルムを張った最初のボードで

板の裏の穴開けが忘れられているのが発覚しました。

オリジナルの板は両サイドのパネルを固定するビス頭をかわすために、

20㎜Φのほぞ穴が空けられているのでした。

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すかさず、カーボンファイバー柄のフィルムの上から

当初18㎜の座ぐりカッターで穴を空けました。

しかし穴の位置が違ったのか、トップボードを閉める時にビス頭と干渉して

スムーズに締まりません。

そこで、新たに20㎜の座ぐりカッターを購入して

穴を広げようとしましたが中心が決まらず、

穴が歪んでしまいました。

一応補修してそれなりにはしましたが、

新たにもう1枚作ろうと、別の板を穴あけ加工をしました。

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これまでの段取りも分かっていましたので、

作業はスムーズに行くはずでした。

しかしここで又問題発生。

最初の板は、カットしてすぐに

カーボンファイバー柄のフィルムを

裏表両面に貼ったので問題なかったのですが、

今回の板はそのまま立てかけておいた為、

かなりの反りが出てしまいました。

仕方なく、反り補正の為に重しを乗せて暫く置いて置きました。

しかし、反りは殆ど元に戻らないため、

最初に加工した板を、トップボードとして使えるように仕上げる事にしました。

細かい箇所は不満が残るのですが、

先ずは仕上げる事を1番に考えて作業を進めます。

トップボードにウレタンフォームのクッションと

赤のフェルトを接着して仕上げに入りました。

赤いフェルトは採寸後、クランプでとめて接着します。

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各パーツを取り付けて音出しチェック

ワーミーバーのストッパーの位置決めが未だですが

とりあえず、今の位置で調整します。

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音出しをして、とりあえず問題の無いことを確認しました。

ワーミーバーを使って音色、音程のチェックを行いました。

やはりワーミーバーを多用するとチューニングの狂いが出やすいです。

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再度チューニングして音出しチェックします。

この後、しばらくシーズニングで様子を見ます。

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やっと、出来た!!!という感じです。

嬉しいですね。

そしていよいよ、2022年7月29日(金)午後3時

お客様が見えて、ワーミーバーを取り付けた

クラビネットD6はオーナー様の元に帰りました。

いつもあったクラビネットが無くなると

ちょっと寂しい思いになります。

そんな事言ってられない、明日は新潟にCP80の納品です。

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