ローズピアノ スーツケースモデル 修理 2024.04.09
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ピアノ職人・VIRA JAPAN
(有)ラッキーパイン
お客様からのご依頼で、2023年12月に滋賀県まで伺って引き取ったRhodes pianoです。
前面のスピーカーネットはワンちゃんが居たようで、ボロボロになっていました。
背面も前面程ではないですが、破れが有ります。
こちらのモデルはRhodes pianoの初期モデルですので、アンプ出力も形状も後期のモデルとは違います。
取りあえず電源を繋いで、音出しをしてみました。こちらのモデルは117V仕様ですので、ステップアップトランスを使います。
音は出たのでですが何か違和感があります。よくよく確かめて見ると、片チャンネルしか音が出ていません。原因究明の為プリアンプのカバーを外して、中のチェックを行いました。
するとビブラートを制御するフォトカプラーの片側の電球が切れていました。早速パーツを発注して交換、修理します。
パーツの入荷に時間がかかりましたが、電球を交換して問題無く動作するようになりました。これでいよいよ本体のメンテナンス作業が開始出来ます。
先ずは鍵盤の高さ合わせ、鍵盤ならしを行います。
特製の鍵盤定規をあてて、高さを測ってみると、中央部がかなり下がっています。
2024.04.11鍵盤ならし調整をし始めましたが、鍵盤を外す時にかなり固いので、先にクリーンアップ作業をする事にしました。
鍵盤下には60年間のホコリと何か分からない、得体の知れない何かがあります。多分虫の住処かと思います。
中途半端な作業は出来ないので、アクションを分解して取り外して行きます。ハープを取り付けて有る土台は木製で、低音部側には黒いスペーサーが2枚貼ってありました。
右側の土台はスペーサーは無く、そのままハープが取り付けて有りました。高さ合わせの為と思われます。
ケースの裏側を見て見ると、トーレックスの剥がれが有りました。
高音部側も剥がれが有り、このままにしておく訳には行きませんので、後で接着しておきます。トーレックスに破れはないので修理して使えそうです。
鍵盤やアクション等全てのパーツを取り外して、ケースのみにしました。これからお掃除とクリーニング、トーレックスの修理をします。
ダンパーロッドのアンカー部にクッションフェルトが一枚落ちていました。これはどこで使っていた部品なのか分かりません。後で組付ける時に調べてみます。
ダンパーロッドホールのクッションフェルトはボロボロになっているので、張替えします。
取りあえず全ての金属パーツを取り外してお掃除をしました。
キーベッドもホコリが溜まっていたので、クリーニングしてからピンサビ落とし等の作業を行って行きます。
先ずは全てのパーツをお掃除する事から始めますが、一つ一つのパーツの状態を確かめながらの作業となります。
ハンマーのゴムチップは、低音部側は幾つか交換された跡が有りました。
高音部側は破れが出ているものが有り、こちらは要交換です。
ただ、こう言った部品もパーツの状態にもよりますが、交換した方が良い場合とそのままの方が良い場合が有ります。これは音色に関係してくる所ですので判断が難しい所です。
こちらの鍵盤ブロックは初期仕様のフラットな形状の為、タッチがもたついて重く感じます。その為後期モデルではブロックの手前側端っこに小さな突起を作ってタッチ感を向上させています。
こちらのモデルもその加工をするので、鍵盤とハンマーの位置を測っておきます。
鍵盤の動きに大きく影響するバランスピンは、所々激しいサビが発生していました。また、幾つかのピンは曲げられています。多分鍵盤の動きの調整の為に角度を変えたのではないかと思います。
さて、本日のメインイベント、バランスピン研磨です。サビが発生していなければそれ程時間はかからないのですが、今回は殆どこの作業で一日仕事となります。
サビはピンの根元付近に一番発生するので、パンチングを全て外して作業をします。これを一本一本全て手作業で行いますので、全てのピンを磨いた後は、手と指が無茶苦茶痛くなります。
それでも全部の作業を行った後は、不思議な爽快感があります。その後ハンマーの走りと取り付け位置の調整、ダンパーの取り付け位置の調整を行いました。
次回の作業に向けて、トーレックスの剥がれを接着しておきます。
接着は乾燥するまで時間がかかりますので、この状態で1日以上置いておきます。
翌日、内側の接着が乾いたので、外側のトーレックスの接着をしました。
2024.04.19今日は一日がかりで鍵盤の下処理を行いました。白鍵がかなり黄ばんでいるので念入りに作業を行いました。ペーパーで水研ぎするのですが、黄ばみを落とすのに#400、#600、#800、#1000、#1200、#1500の6種類のペーパーを使いました。1日中水研ぎ作業をすると腕と指が痛くなってきます。
この後キートップをバフ掛けして仕上げて行きます。
2024.04.21鍵盤の木場の汚れ落としとキートップのバフ掛けを行いました。
白鍵の木場は指がこすれて黒ずんでしまいますので、綺麗に汚れを落とします。
黒鍵もカビや汚れが付着して汚れています。
こちらも両サイドをバフで研磨して綺麗にします。
黒鍵のキートップも汚れが付着しているものが有ります。
こちらもバフ研磨で綺麗にしました。
白鍵、黒鍵共に新品の様な手触りになりました。
白鍵の一つのフロントブッシングが剥がれて無くなっていましたので、新しい部品を取り付けました。
ダンパーロッドホールのクッションフェルトも張替え、交換しました。
2024.04.27金属パーツのサビ落としとバフ研磨を始めました。一気にやると体がもたないので、時間が有る時に少しずつ作業して行きます。新品のパーツに交換した方が楽で安上がりなのですが、どうしても金属パーツだけが新品感を出してしまって、全体の雰囲気が壊れてしまいます。また、新品のパーツは形状が少し違うので、取り付けた時に本体との間にすき間が出来てしまい、取って付けた感が拭えません。時間と労力がかかりますが、オリジナルのパーツを蘇られて取り付けるようにします。
2024.04.28鍵盤部の金属パーツの磨き込みを終えて、本体に取り付けました。
キーベッドもセットして、いよいよ鍵盤のキーブロックの改造と鍵盤整調に入ります。
2024.05.02鍵盤ブロックに取り付ける為の、厚さ2.5㎜のパーツ作りの為、プラ板を3㎜幅でカットして行きます。
カットしたピースは#250のペーパーでバリ落としと寸法合わせをします。73鍵分のピースを作るのに1日かかりました。
2024.05.03今日は予定がキャンセルとなったので、昨日作ったピースを鍵盤ブロックに接着する作業を行いました。先ずはピースを鍵盤ブロックの手前がわギリギリに接着して、クランプで圧着します。ブッシングも一緒に接着してしまえば1回の作業で終わるのですが、やはりここは丁寧にやっておかないと、ピースが剥がれたり、ブッシングの接着剥がれが起きると嫌ですので、2回に分けて接着します。
このクランプが6個しか無いので、6個を接着したら暫く時間を置いて、ブッシングを接着します。ブッシングの接着はマスキングテープを十字に貼って圧着します。
この作業を繰り返すのですが、1回に6個ずつしか先に進めないので、結構時間がかかります。
他の楽器のメンテナンス作業と合わせて鍵盤の接着を行って行きますので、時間が無駄になる事はありません。ただ丸1日やって、半分くらいしか仕上がりません。
2024.05.06連休の最終日ですが、今日もメンテナンスを行いました。今日は高音部のハンマーチップの交換と鍵盤ブロックにチップを貼り付ける作業です。先ずは取り付けてあるチップを剥がします。
その後ヤスリを使って、残っている接着剤をキレイに取り去ります。この作業をしっかり行わないと、ハンマーチップがちゃんと接着出来なかったり、向きが変な方向になってしまうので、丁寧に行います。
そしてボンドを使って接着します。
鍵盤ブロックへのチップの貼り付けはやっとすべての鍵盤への貼り付けが終わりました。ただ、ブッシングを張り込んでからエイジングで1日置きますので、最終的に本体に組み付けるのは明日以降となります。時間はかかりますが、この辺りはしっかり時間を取ってやらないと上手く行きません。
2024.05.07約1か月ぶりに鍵盤が本体に戻りました。これでやっと当初やろうと思っていた鍵盤ならしが始められます。
感覚的にはこれで全工程の50%と言った所でしょうか。
今日中には鍵盤ならしを終わらせたいですが、午後から別件で用事が入っている為、どこまで出来るか不明です。
用事を早めに済ませて、夕方帰社して白鍵のならし作業を行いました。
その後黒鍵もチェックしてみると、中音部がかなり下がっていましたので、こちらも鍵盤ならしを行いました。
夜8時過ぎましたが、黒鍵、白鍵共にならし作業を終える事が出来ました。
2024.05.08鍵盤関係をやっている合間に、アンプ側の修理を先に行う事にしました。
全面のスピーカーネットと背面のスピーカー着きボードを取り外しました。
前面のスピーカーネットの枠が割れて、破損していました。これはパーチクルボードを使っているので、必ずと言って良いほど破損しています。こちらも案の定剥がれていました。
剥がれと共に、折れている部分も有ります。
こちらは接着して、クランプで固定して乾燥させます。
スピーカーネットの接着の合間に、内部の調整作業をしようと中を見た時、何か得体のしれないものが有りました。
これはどう見ても、小動物の巣のようです。何がお住まいになっていたのかは分かりませんが、多分ネズミ系の動物ではないかと思われます。
とにかく、申し訳ないですが中の巣を撤去させて貰いました。通常は不法侵入に当たりますので、文句は言えないはずです。
2024.05.13アンプ部のトーレックスのクリーニング、及びスピーカーネットの張替え、金属パーツのサビ落とし、磨き上げを行っています。スピーカーネットの木枠が腐食していましたので、補強しました。なかなか一筋縄では行かないです。
この後、ネットの張替えを行ってから、いよいよ音出しとハープ調整、A=432Hzのトーンジェネレーター調整へと進みます。
フロントのスピーカーネットの張替えは完了しましたが、枠がかなり傷んでおり、かなり無理やり取り付ける結果となりましたので、ネットは取り外さないで使用するようにお願いします。フロントのスピーカーネットを外す事は滅多に無いと思いますが、外すと枠が割れて破損します。
2024.05.14今日は時間があまりとれなかったのですが、背面スピーカーボードへのネットの貼り付けを行い、Rhodesのロゴも取付けて本体にセットしました。
鍵盤部にはダンパーを取り付け、ハープもセットして久しぶりに音出しをしてみました。ピックアップの断線が一つ有りましたが、何とか音は出てくれました。これからハープ調整やボイシング調整等、まだまだやらなければならない作業がいっぱい残っています。願わくは大きなトラブルが起こらないで、無事に作業が進みますようにと願うばかりです。
2024.05.17断線したピックアップを交換して、今日はA=432Hzでピッチ変更しました。中音部は問題無くピッチ変更出来ましたが、低音部に移る中間部でピッチが下がらないタインが出て来ました。
NO31のB3♭です。あと1㎜タインが長ければ何とかなったのですが、どうしても正規のピッチに下がりません。こちらはトーンジェネレーターを交換して対応する事にします。それからもう一つ、ある周波数でスピーカーにビリ付きが発生します。これも少々厄介な症状で、スピーカーの交換が必要になって来ます。作業は明日以降に持ち越しです。
2024.05.19日曜日ですが、修理品が溜まっていますので、時間が取れる時に作業を行います。A=432HzでNO31のB3♭のトーンジェネレーターについては、当社の部品取りの同じモデルからパーツを取って交換して何とか収まりました。
しかしNO25以下のトーンジェネレーターで音程が下がり切らない為、NO25にやはり当社の部品取り用の同もでるからNO24のトーンジェネレーターを移植してピッチを合わせました。しかしその後、その下の音程に関しても音が下がり切らないKEYが幾つか出て来ました。そこで、今後は一音下のトーンジェネレーターをそれぞれ右となりに移動させてピッチを合わせて行ってみる事にします。そうすれば、最低音のみ他のモデルからトーンジェネレーターを移植する事で音程も合わせられるのではないかと思います。
2024.05.22一音したのトーンジェネレーターを右隣に移植する作業を行いました。せっかくなので、グロメットも新品に交換しました。
トーンジェネレーターの高さはトーンジェネレーターのタインを付けるブロックの高さに合わせて行きます。
低音部のトーンジェネレーターの移動が完了したので、これからいよいよA=432Hzで調律して行きます。
最低音のトーンジェネレーターに関しては、当社の部品取り用のモデルから取り外して取り付ける予定です。
A=432Hzにピッチ変更して行く中で、これまた幾つか問題が発生して来ました。一つはタインに取り付けられた調律用のスプリングを調整して行く中で、幾つかの音の抜けが悪くなりました。これはスプリングの位置が原因となっていると思われるので、そのトーンジェネレーターを再度交換する事にします。部品取り用のトーンジェネレーターにする事で音色が変わる事を願います。
2024.05.23全てのトーンジェネレーターを取り付けて、A=432Hzで調律も行いました。まだ、正確な調律では無く、ピッチが合うかどうかを確かめる為に凡その周波数で合わせています。これから音色のチェックと共に、精密な調律に移ります。
全てのパーツを取り付けて、いよいよ完成に向けて最後の調整作業に入ります。
特定の周波数でビリ付きが有る為、スピーカーをチェックしてみた所、前側の高音側のスピーカーからノイズが出ていました。どうもスピーカーのダイヤフラムが原因のようです。
そこで当社の部品取り用のRhodesからスピーカーを移植しようと取り付けてみましたが、どうも良くありません。音色に違和感が出ます。部品取り用のモデルはMarkⅠかMarkⅡのモデルで、スピーカーのインピーダンスが違うようです。
その為今回はノイズを発生するスピーカーと背面のスピーカーを交換して、背面のスピーカーは殺して前面のスピーカーで発音するようにしました。
ライブで大音量が必要なら、LINEから出力すれば良いでしょうし、自宅で使用するのであればこの方法が一番自然な感じになると思います。明日以降で、最終調整に入ります。
2024.05.25今日中に全ての作業を完了しようと、調律に取り掛かりましたが、高音部は問題無いのですが、低音部の特定の周波数でビリ付きが発生します。当初はスピーカーの問題と考えていましたが、どうもそれだけでは無いようです。
再度、背面のスピーカーを外してチェックしてみましたが、どうも同じ低音部の音程でビリ付きが感じられます。このような症状は接触不良で起こる場合が多く、これもRhodesの音色と言ってしまえばそれで終わってしまいますが、どうしても気になります。
お客様への納品が1週間ズレて時間が取れたので、気を取り直して1からチェックしてみます。
ただ、この様なビリ付きは原因特定が難しく、作業は難航しそうです。先ずはプリアンプから見て行きます。
先ずは基本の基、接触不良を疑う事から始めました。
接触不良と言えばハンダ不良かコネクターの接触不良がこれまで断然多かったので、4ピンコネクターの接点磨きと洗浄から行う事にしました。
先ずは4ピンコネクターをグラスウールの研磨ブラシで磨き込み、その後無水エタノールで洗浄します。鍵盤部とアンプ部の双方と、それぞれの受けのコネクターも同じ方法で洗浄しました。
あと、忘れてはならいのがACCESSORY端子2の接点です。この接点はACCESSORY端子2にフォーンプラグを差し込んだ時に、スピーカーからの音を消す為の接点が付いています。この接点が接触不良を起こすと、ノイズの原因となります。こちらも接点磨き棒で磨き上げました。
取りあえずこの状態でコードを接続して音出しをしてみました。すると、ノイズは消えRhodes独特のドライブ感のある音色になりました。ノイズとドライブ感とは紙一重の要素が有りますが、やっと本来のRhodesらしさが戻りました。
そこでもしかしたらと思い、リヤースピーカーも接続して音出ししてみた所、なんとしっかりと音が出てくれています。なんとかこれで問題解決してくれたと願います。また明日以降に低音部の調律と調整作業を行って参ります。
2024.05.26今日は低音部の調律と音色調整を行いました。一音発音状態の良くないトーンジェネレーターを(NO17)を交換しました。それ以外のトーンジェネレーターは問題無く動作してくれています。
そして、やっと全ての作業を完了出来ました。ただし、まだこれから数日はエイジングで様子を見ながらの微調整が続きます。かなりあっちこっちいじって来ましたので、全体が落ち着くまでもう少し様子を見る必要が有ります。
お引取りして、動作確認、状態確認を経て約2か月の調整期間を頂きましたが、やっと一段落と言った所です。
2024.05.29 最終チェックでトラブルが無いか確認しましたが、どうも又低音でビリ付きが出ます。特にF3の音程辺りで和音を弾いた時にビリ付きが発生しました。再度4発のスピーカーを1発ずつ外してビリ付きの発生状況を確認しましたが、どのスピーカーでもビリ付きが発生します。と言う事は原因はスピーカーのヘタリでは無く、プリアンプからアンプにかけてのどこかで発生している事になります。
そこで改めてプリアンプ内部での接触不良が無いかをチェックしました。TREBLE BASSのボリュームに少しガリが出ていました。
念のため3つのボリュームポッドにCAIGを塗布して、接点復活剤処理を行いました。その後配線関係の再ハンダ処理と各ジャックの接点復活剤処理を行い通電確認を行いました。この後暫く様子を見ます。
2024.05.30ヘッドフォーンを繋いでノイズの発生確認を行いました。すると和音を弾いた時にノイズが聞こえます。となるとアンプ、スピーカーの異常では無く、プリアンプが原因のようで、TREBLE-BASSのボリュームによってもノイズの発生が変わって来ます。やはり経年による部品の劣化が原因のようです。
ただご自宅での使用であれば、音量的にも問題は無いですし、ライブ等で大音量が必要な場合はライン出力でPAに接続して貰えば問題は有りません。今回はこれで作業終了と致します。いよいよ納品に向けて準備致します。
2024.06.02無事にお客様の元にお届け出来ました。今回のRhodes Pianoは調整作業に難航しましたが、その分思い入れも強く、お納めした時は何とも言えない達成感と安堵感が有りました。有難うございました。
終わり